亜東印画輯/09

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  ●河岸の水車小屋（橋頭附近）
  
  朝まだき夜露にぬれた山合の溪流は、柔らかな陽の光を浴びて山皺も綠樹も水面も皆淸々しい。長い石堤に豐かに堰止められた水邊には名物の水車も動かず、車小屋の孤影にみが緩やかな影を映してゐる。水車は沿線の山に多い榆樹其他の幹を碎いて線香の材料をひくためで、細河の流に沿ひ到る處に散見して景趣を添へて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●蟠龍寺付近（連山關附近）
  
  日淸、日露の古戰場として名高い摩天嶺の嶮は連山關の西三里にあり、頂上に五つの巖石峙立せるため五峯嶺の名がある。頂上に蟠龍寺あり、北處より翠松紅蘿相點綴する懸崖遙か脚下の深潭を瞰み往年この天嶮に戈を交へし武士の追憶を辿れば、碧水幽韻の裡に懷舊の情湧き苦戰の跡が偲ばれる。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●釣魚臺普濟寺（安奉沿線）
  
  橋頭より南一里半あたり細河の溪流漸く屈曲して峽流を出づる處、深潭に臨み曲水を壓して峙つ巨巖が釣魚臺である。石階を昇れば普濟寺あり、老松絕壁に滴る對岸の懸崖より望めば碧水を隔てゝ丹碧長磴の影を映す樣は麗はしく、特に雨に煙る姿は蜃氣樓の如く一しほと云はれて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●柞蠶の野積（安東附近）
  
  柞蠶は野蠶の一種で柞樹の嫩葉の裡に蠶を放養しその產繭から糸をとる方法で、この飼育法は約百年以前から行はれたもので糸は絹紬又は天鵞絨類に適する。農家の副業として近來滿洲物產中の重要とされ、特に安奉沿線の山腹は柞樹林が多いため一帶に盛んに行はれて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●煙草の栽培（湯山城）
  
  苦力などが如何にも悠然と煙を吐いて居る長い煙管の先に下げた袋の中の煙草は大方は地物である。滿洲產の製品は今迄は品質も劣等で僅かに手揉みにされて土民の喫煙に供されて來たが、近來米國種黄色物が移植獎勵されてから漸次有望視され、今後はその統制と共に栽培が有利とされて來た。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●高麗山の一角（安奉沿線）
  
  遙か眼下に銀絲を連ねたやうな細流は、赭土を點綴する綠樹の間を縫ひ蜿々と曲走し、俄かに奇峯高麗の突兀より湧出せる一抹の白雲は遠く翠巒をかすめ山裾を廻つて去來する。雲影に彩られた地上は、雲表に遮られた遠山の頂を合せて渾然として宛然一幅の畫である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●鳳凰山遠望（高麗門附近）
  
  『孤松蟠地起、亂石倚天生』と詠れた奇巖怪石の鳳凰山の偉觀は、淙々の溪水に懸崖の瀑布に或は古蹟を尋ね奇勝を訪れるも興あるが、遠く山裾に杖を止め靜かに展開された長閑かな山峽の草原に、牧草を追ふ放牛の聲を夢の如く聞きつゝ、畑を越え森を隔てゝ遙かに稜々たる山骨を望むのも幽幻の裡に又得がたき趣がある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●棉花の摘採（太子河）
  
  アカシヤの花も散つて滿洲に七月の暑い日照りが續く頃になると棉の畑に眞白な美しい花が咲く。九月開絮と共に棉花畑には花摘みの姑娘の群が現はれて、やがて彼女等の小褂兒になるだらう棉花は輕いメロデーの口ずさみと共に摘採されて行く。（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●棉花の乾燥（太子河）
  
  準備の整つた耕地に四月から五月初め頃に棉花の播種が行はれ、その間幾度も手入れをされて七月中旬頃開花八月中旬から九月初め頃に開絮と共に見事な棉の花が摘採され、摘まれた棉は充分の乾燥を與へて繰綿とされ市場に出される。　棉花は滿洲の重要物產で現在年額繰綿三八〇〇萬斤着々品質の改良と擴張を計つて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●搖り籃（太子河附近）
  
  見たとこら野良の休息に家に殘した幼兒に乳を與へてるらしい母、嬉々として乳房に吸ひよる笑顏と疲れも知らぬげに兒と戯るゝ愛着の歪められぬ自然そのまゝの姿の美しさ、ふと通り過ぎの軒から覗いた農家の午時。心盡しの蠅追ひまで備へられた丹塗りの搖籃はさてどんな夢をもたらすのやら。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●陽を浴びて（蒙古）
  
  澄み切つた爽やかな郊外の午下り、蒼空の下に柔らかな陽光を浴びて、ぽつかりと白く浮き出たやうな緬羊の群が、如何にも平和さうに草を漁つて居る圖は牧歌味の豐かな自然のタツチを見るやうだ。　緬羊は山羊と共に蒙古種であるが在來食用を主として飼育した關係から毛質はよくなく、然し今は種々なる改良種が普及されて來たので前途見る可きものがあらう。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●放牧の一團（蒙古）
  
  一望遮るなき蒼穹と、綠の草原を劃する水平線の彼方から徐々に進み來る放牧の群、淡い陽光に溶けて銀色に映ゆる群羊の一團、靜寂の中に襲ひ迫る自然の迫力はここならで見られぬ大きさである。馬上豐かに跨つた牧夫は一棹の長鞭よく數千の群を馳驅して曠原の彼方に消えて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●氈子を造る（蒙古）
  
  諸方から買集められた羊毛は裝塡されたまゝ積まれて居る。端の方のさゝやかな建物はこれを加工する工場で、此處で拙稚な蒙古の工人の手で凝固劑を入れて足踏にかけられ氈子が製造されて居る。氈子は包を造るに必要な嚴寒にも堪へる絨氈樣のもので、羊毛はその他に蒙古人の衣類に用ひられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●原頭の活佛（蒙古）
  
  砂丘から草原へと幾日も幾日も遇ふ人さへ稀れな蒙古旅、屯から屯に日を重ねた一日ふと原頭に喇嘛僧の一行に出遇つた。薄汚い黃袍、法體にはふさはしからぬ精悍な面貌の一群は幼い活佛を中心に練つて行く。喇嘛敎は彼等の宗敎であり即生活とも云ひ度い根強いもので活佛はその崇拜の偶像である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●盛裝の婦人姿（蒙古）
  
  待望の祭典の幕は切り落された、近郷近在は勿論遠くからこの年一回の催しを樂しみに集つた善男善女の屯する包が數限りなく出來て、着飾つたいそ（いそ）した群が氈子の中から覗かれる。古代の服裝を思はせるやうな寶石と銀飾に盛裝した蒙古女が今しも參詣へと出かける處である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●草原に屯して（蒙古）
  
  旦に夕に牧草を追ふて旅をつゞけて來た人々は今日はこの地に屯する事となつた。一望千里の草原の眞唯中に、幾日かの旅をつゞけた一行は暫しの憩ひにと幌馬車を停め、見る間に包は巧者に作られた。寬いだ人も馬も牛も夜露が草の葉を潤ほす頃には、幾日かの疲れも忘れて今宵は圓かな夢を結ぶであらう。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●王府前の馬群（蒙古）
  
  牧畜が主な蒙古人は畜類はその全財產と云つてもよくその所有頭數で財產が表價される。これは某旗長の王府前に螺集する馬群の一隊、二本の長棹は王府を標識する印で點々と屯する蒙古包はその堂官の宿舍であらう、馬は乘用の外に輓馬用として重要されて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●牛糞を焚く（蒙古）
  
  草木の無い蒙古地方では牛糞が唯一の燃料で、平常女子供や老人は籠を下げて拾ひ集めこれを財產として貯藏して置く。夕が近いのであらう、家婦は炕に牛糞を焚きつけてその支度にかゝるらしく、門には親の歸りを待つ顏の兒等の姿が見らる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●進化した固定包（蒙古）
  
  移動の蒙古包がやゝ半永久的になると固定されて側が泥土で塗られる。更に永久的になると外觀は移動包と同じであるが生活樣式の變化と共に建築樣式も異り、屋根も固められ窓や炕が取付けられ入口の氈子もはづされて全く支那式家屋となる。後の生垣は家畜を飼育する圍で恐ろしい蒙古犬が心得顏に見張りをして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●支那式幌馬車（蒙古）
  
  年一回の祭典は終つた、裝飾された幌馬車には種々の御土產も積込まれた、またしても幾日かの旅は駱駝の鈴にゆられて草原の彼方に續けられる。これは殆んと支那化した幌馬車で、夕闇草原を匍ふ頃に轅の跡を殘して遙かに曠野の彼方に影を沒するこの馬車から、餘韻嫋々たる哀調の蒙古唄を聞くのは淋しいものである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●順天廣場附近（新京）
  
  宮廷御造營豫定地附近を中心としてやがては一國政治の中心となり、魏然たる建築の群立を見ると共に名實共に新興國の威容を如實に誇るべき順天廣場附近は、今やその整備着々進涉し莊重なる官廳の姿を現しつゝある。　竣工の曉は搖ぎなき國是と共に燦たる偉觀が現出せらるるも遠くはない。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大同広場（一）
  
  解説文剥がれ
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  ●大同廣場（二）（新京）
  
  大同、興安、長春、民康の大道路幹線をその圓型中心に集めた大同廣場は、美しき公園施設の綠樹とそれを繞る舖裝路を中心として周圍には首都警察廳、文敎部、國都建設局の各官廳及滿洲電信電話會社、滿洲中央銀行等の大建築その輪換の美を並べ事實上の中心をなして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●興安道路（新京）
  
  文明の尺度はその道路の發達程度によると迄云はるゝが如く國都新京の街路施設もその理想の下に着々と建設せられつゝある。興安道路は大同廣場より西方を貫く大路で、淡いアークの光に照されてマカダム路に影を落す街路樹の並木に、更けやらぬ北滿の夏を愛づるのも一しほである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●官舎街の晝（新京）
  
  順天、牡丹の兩公園地帶に圍まれた閑靜な一角にある滿洲國第一代用官舎街は、近代式の設備と瀟洒な樣式とでなる建物である。國都の躍進は人口の增加を伴ひ建設の進涉は住宅難を見たが、今はそれも緩和されて前庭に集ふ兒の姿にも長閑に靜かな陽がさして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●日本橋通（新京）
  
  舊附屬地のメーンストレート日本橋通り、事變後進出された日本人を中心とした大厦商衢が軒を並べて居る商業區域で、國都の文化は皆この一廓から吸収せられて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●吉野町の盛場（新京）
  
  新京の人々が持つ享樂の盛場は吉野町である。やがて鈴蘭燈に灯ともす頃になると、ネオンにジヤズに盛場の宵は流れ出す散歩客の人いきれに夜は闌けて、都會人、分けても若い人々の持つ生活の寂寞は慰められて行くのである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●南嶺道路（新京）
  
  東西は「路」南北を「街」小路が「胡同」と建設區域は整然と區劃が付けられて居る。新京驛から中央通、大同廣場を一直線に南行して南嶺に達する約一里半の幹線が大同大街である。坦々たる勾配をドライブする南嶺詣は新なる感慨に香華を捧げると共に快適なる淸遊に一日の行樂を過すにふさはしい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●淨月潭貯水池（新京）
  
  附近に利用すべき河のない新京は郊外五里の腰站に淨月潭貯水池を作つた。花崗岩の長堰五五五米、滿水量四三一萬平方米、宛然一大湖水の如き周圍は公園設備を施し、靜かに湛へたる水面には植樹山態の影を映して幽趣掬すべく都人の杖を曳くものが多い。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●國立賽馬場（新京）
  
  國立新京賽馬場は西郊外ゴルフリンクの西隣に設立された近代的設備の完備を誇る競馬場である。男性的な輸贏に賭ける競馬の壯快味と、一瞬にして悲喜交々におどる搖彩票の誘惑は春秋二季のシーズンには萬都のフアンを湧き立たせて此處競馬場は狂噪の曲に渦巻く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●新都市風景（新京）
  
  滿鐵自慢の快速列車『あじあ』に客となり新京驛頭に下り立つと、かつての旣成新京とは全く趣を異にした明朗さと新鮮さの新都市風景が展開される。並ぶ大厦に映ゆる陽も麗かに國都の新興氣分の雰圍氣の中に、道往く人々の足取りにも晴れやかな活氣が流れて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●中央通（新京）
  
  驛前の廣場から放射された三大路の中央を走る中央通は、舊附屬地の主要路として邦人の手に經營せられた街で、幅の廣い平坦路と舖道を被う綠の街路樹と、輪奐の美に映ゆる新裝の美觀は新らしい國都にふさはしい淸々しい情景である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大馬路（新京）
  
  大馬路は舊く長春時代から商埠地の主要路として日滿折衝地帶の樞要な役割を持つた一劃で、巨商の櫛比した商勢の活氣もそのまゝに今も尚人馬輻輳の繁華をなして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●南嶺戰跡記念碑（新京郊外）
  
  昭和六年九月十九日午前三時、奉天の火蓋と共に事變の第一頁を血に彩る南嶺の苦戰、倉本中隊長以下枕を並べたその地に新らしく記念碑が建てられ、新京より坦々たるドライブ路も通じて市民散策の地となつた。日々戰跡を弔ふ人々の香華の煙は縷々として絕ゆる事がない。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●戰の跡（新京郊外）
  
  未だ乾きやらぬ血醒い氣はいさへも殘りげなる古戰場の並木、南嶺の昔ながらの兵舎に秋の陽は赫々と訪れて、風もなきに道端の落葉は怨むが如く動き靜かに眠る數基の墓標の脚下にはありし物語りを辿るげに朽葉は囁く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●西公園（新京）
  
  西公園は總面積十二萬二千坪あり、園内は鬱蒼たる樹下に數々の理想的な施設を備へた新京の慰安地で、春の宵、夏の夕、秋の陽にさては冬のスケートに都人和樂の逍遙地である。參差たる綠葉を洩るゝ陽影を縫ふ日、滿露の楚々たる姿は豐かなる國際的情趣を添へて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●寬城子（新京郊外）
  
  今では思出の楡の木影にその頃のロシヤ氣分を味ふことも淡くなつたが、寬城子は北鐵華やかなりし頃迄は豐かな異國情緒の漂ふ土地であつた。滿洲事變のトツプを切つた苦戰の歷史を記念碑に殘したまゝ今は靜かに都塵をさけ並木に包まれる一劃である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●創業館（新京）
  
  明治の大立物伊藤春畝公が往年渡歐の途次哈爾濱驛頭の露と消える前夜ゆくりなくも一夜を明かした處である。東公園の丘上に現存のものは記念のため後年改修されたものであるが、歷史の少い新京としては近世史上由緒の深い思出の記念である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●護國般若寺（新京）
  
  宗敎の潜勢力は比較的程度の低い人々に想像以上の力を與へる、般若寺も全滿に多數の信者を抱擁する寺觀で特に設備の整然として行事の壯嚴と嚴肅さは他に類を見ざる特異な存在と謂はれて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●忠靈塔（新京）
  
  新京市街上空高く魏然として聳立する忠靈塔は、滿洲事變に護國の鬼となり建國の人柱となりし遺靈を慰めその芳烈を傳へんため建設せられたもので、國家の榮ゆる限り永久にその礎となり英靈千載に邦家を護ると共に新京のシンポルとして輝くであらう。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●移民村遠望（北滿）
  
  人口過剩と云ふ祖國の大きな負擔を解決する重要な捌け口として滿洲移民が提唱せられてから、今はその實行の秋である。この移民團は哈爾濱郊外阿什河右岸に一千三百餘町歩の袤大な土地を分讓せられて、昭和九年十一月以來着々成果を擧げて居る天理敎信徒の集團村である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●『生琉里』［フルサト］（北滿）
  
  『生琉里』は天理敎信徒の手になる移民村で、昭和九年七月顧る人もなき荒地に掘鑿や井戶の工事が進められ漸く準備が整ふと共に、四十五家族二百餘名の人々が入植し引續き第二、第三の移民を見て今日に至つた集團で今では獨自の信仰を基調として小いながら文化も培はれてるのがうれしい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●耕された畑地（北滿）
  
  滿洲の天地を占める廣汎な大平野、その内には未だ鋤犂も入らざる豐饒な處女地が到る處に見られる。農業國滿洲にふさはしい合理的な移民の挺身は、建國の援助に犠牲となつた碧血の地に鍬を加へつゝ香華を捧ぐると共に、その開拓は經濟生命線の確保に重要な役割を演ずる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●移民村（北滿）
  
  遠く祖國を離れ先づ安住の里を尋ねそこを墳墓の地とした一團は此處に自給自足の村を造つた。先驅者の足跡はいつも尊い記錄である、この茅葺の支那房子から進出の意氣と眞摯な努力が生れ、やがてその人々の一鋤毎に豐沃の地は切り開かれて行く、これは哈爾濱郊外の天理村の一角である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●村の小學校（北滿）
  
  日當りの良い南向の校舎の軒下には秋草がすく（すく）と伸びて可憐な花が咲いて居る。文化の恩惠を享けることは少く共、無心のうちに素朴な父母の血が根強く養はれ朝な夕な希望に働く人々の心に抱かれつゝ、此庭で敎育をうけて居る小供等は幸福であり、第二世の敎育として必要な設備である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●粟の刈入れ（北滿）
  
  當時は一風一雨の動きにも喜憂におのゝきつゝ耕した侵晨帶月の建設の勞苦もやゝ酬いられて、今穫入れの畑地に鎌を入れる村人の胸中を思ふと、僅かな辛苦の粒々にも異境の荒蕪地に續けられて來た忍從の試鍊が偲ばれて淚ぐましい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●粟の脱穀（北滿）
  
  大方の農作は殆んど収穫された。暖かな一日、村の廣場に脱穀機を据付けて粟の脱穀に小供も混へてなごやかな情景である。　此の村では主として大豆、粟、小麥が生產され、移民村として整つた基礎があり、しかも信仰による團結と精進は平和の内に眞劍な戰が續けられて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大根畑（北滿）
  
  無盡藏な資源を抱有する產業國滿洲でも農業は尤も主要なもので、その發達は農產の開發にあると謂はれながら永い間未墾の地域が雨露に曝され來た。然し今は王道樂土の下に移民の計畫が進涉されて耕作された田畑を随所に見、蔬菜類も漸く都會へ進出されるやうになつた。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●朝露に沽れて（北滿）
  
  夜の帳が靜かにはがれ廣い農場の地平の彼方が淡紅色に彩られて來ると、朝餉の炊煙が軒並に搖ぎ、人々は今日の仕事へと急ぐ。　朝露に沾れつゝ牧場に追はるゝ羊の群にも柔らかな曉の光が流れて希望の村の平和な一日が明ける。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●朝露に沾れて（北滿）
  
  夜の帳が靜かにはがれ廣い農場の地平の彼方が淡紅色に彩られて來ると、朝餉の炊煙が軒並に搖ぎ、人々は今日の仕事へと急ぐ。　朝露に沾れつゝ牧場に追はるゝ羊の群にも柔らかな曉の光が流れて希望の村の平和な一日が明ける。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●冀東政府（通州）
  
  北支の自治運動から離れた戰區自治促進會が河北省東部の非戰地區とその西に連る縣境界を併せて獨立したのが冀東防共自治政府である。全面積凡そ我が九州と近く二十二縣を有し、人口六百萬、北は長城を界に南は平津に接する北支の重要地區で通州に主都を置く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●通州鳥瞰（通州）
  
  通州は北平の東方十五哩にあり、城壁は明初の創建になり、淸朝更に增築せるものにて、昔時は通運、朝天、迎薰、凝翠の四門より成り、これを貫く十字街に繁榮を誇つた町である。淸朝沒後時勢の趨移と共に僅かに田舎の一小城として寂びて來たが冀東政府の樹立と共に一躍その名が擧げられた。（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●通州の街（通州）
  
  永い間の擾亂や兵匪の災禍に明るい日を見る事も少なかつた疲憊の町に新らしい天日がなごやかな光を投げ新政府の甦生に一陽復來の通州の巷は、往交ふ人々の面貌にも昨日と異る潑溂とした生氣が漲つて賑やかな中に市況も活氣を呈して居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●池畔疎影（通州）
  
  千年の齡を苔蒸した巨塔は靜かに疎影を投げ、池塘に映る枯柳の寂しきたゝずまひ、薄墨を溶かしたやうな空に殘された鈍色の城壁、音もなく池面を匍ふ裸の枝影にも微動の氣はえさへも聞きとれぬ靜寂境、カメラの表現には物足りぬ處はあるが、正に枯淡な一幅の名韻である。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●燃燈舎利塔（通州）
  
  通州には町と共に必ず聯想される古塔がある。この燃燈舍利塔は舊凝翠門内にあり高さ十三層、下部に蓮花の臺座あり雄渾なる偉觀を高く中空に聳立して町のシンポルをなして居る。後周宇文氏の創建で康熙年間更に重修されたものと謂はれ、冀東政府は實にこの一角から發祥されたのである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大運河（通州）
  
  鐵道の開設を見ぬ頃の通州は船運の重要地であつた、有名な大運河は通州を起點として白河を介し平津間の通航をなし更に中部支那方面よりの貢糧の中繼所となり、町は明朝以來帝室の御米倉の所在地であつた。今は船運の利用昔日の如くでないが河岸に沿ふ村落や楊柳に白帆の隱見する趣は一しほである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城外風景（通州）
  
  我儘な暴君の惡趣味と苛斂誅求の表徵として僅かに殘骸を曝してるやうな城壁は、幾度かの兵燹や戰亂の見果てぬ姿を色褪せし荒頽の醜骸に殘したまゝ灰色の吐息をついて居る。うすら寒い空合ながら城壁を背にした農家の軒先きは小春の陽を浴びて屈托もなげに長閑である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●行宮の跡（通州）
  
  湯山鎭は昌平縣にあり大湯山と小湯山の間にある部落の總稱で、康熙年間此地の泉源が帝室御料となり巨費を投じ大理石の湯地を築設され宏壯な行宮が建てられた名泉地である。其後內憂外患相踵ぎ癈棄のまゝなりしが民國となり行宮跡に溫泉ホテルが經營せられ今日に及んで居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●湯山溫泉（湯山）
  
  溫泉ホテルの長八角形長さ百六十尺の昔のまゝなる浴槽にひたつても、今は昔立ち昇る湯氣の中に春寒に凝脂を洗つた傾國の繊姿を幻に浮べるすべもないが、殘された石階に歷代皇帝の來浴を仰いだ盛時の豪華壯麗の繪卷がそゞろに想起される。（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●湯山の避暑地（湯山）
  
  往時淸朝全盛時代には湯山は歷朝の避暑地として湯山離宮を築かれそれを中心として顯官の別墅が甍を並べる壯觀の勝地であつた。時代の變遷につれ古の俤偲ぶよすがもない一寒邑湯山となつたが、昔のまゝの大湯山、小湯山近くには今も尚北平方面富豪の別莊などが散見され避暑地として溫泉と共に知られて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●張家口全景（張家口）
  
  張家口は蒙古語でカルガンと云ひ、大平山、賜兜山、元寶山の三山に圍まれた自然の要塞地で、僅かに永定河に沿ふ一路のみが昔から蒙古の庫倫と綏遠へ通ずる二大通路の關門であつた。今も尚察哈爾省の政府として政治的にも樞要な處である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●張家口市街（張家口）
  
  張家口は明の宣德年間に永定河畔に下堡を作り更に萬歷年間にその上に上堡を築き蒙古との交易地とされた。爾來塞外への要地として蒙古人の來往する者多くなると共に發展し、現在は對岸の新市街を加へこれを口內區と稱へ更に大境門外の一區を口外區と稱して居る。現在人口約十萬。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●河原の市（張家口）
  
  遠く塞外の奧から遙々長い行列をなした駱駝の背に毛皮が滿載されて來る頃になると、張家口大境門外の磧に賑やかな市が展げられる。秋冬の出盛り期には河源數十町の間に空地無きまでに積重ねられた商品の間を、各地から螺集した商人の聲高の取引の掛聲も喧しく實に盛況を呈する。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●街の毛皮屋（張家口）
  
  蒙古から來る毛皮の取引を唯一の貿易とし昔からそれによつて生きて來たやうな張家口も、色々な政治的關係から昔日の如く交易が盛況を見ぬやうになつた。然し出盛りには尚市が開かれ町の内にも毛皮やその製品が多く見られる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●永定河鐵橋（張家口）
  
  張家口は三方山に取圍まれ南の一面のみが開け、遠く蒙古の草原を渉つて流れ出づる永定河の上流に沿ふ溪谷の町であるため、一度大雨に遇へば忽ち濁流に見舞はれ從來度々慘禍を見たので多大の經費をかけてこの鐵橋が架せられた。橋下は平常さゝやかな流れなので河原は通路となつて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●賜兜山全景（張家口郊外）
  
  賜兜山は張家口の西方郊外にあり北は張家口市街を隔てゝ大平山を望み南は限り無き塞外の展開を恣いまゝにする頗る景勝に富める一角である。山の中腹に丹碧の彩も鮮やかに幾棟かの堂宇を並べるのが有名な雲泉寺である。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●賜兜山雲泉寺（張家口郊外）
  
  雲泉寺は賜兜山の中腹にある名刹で、境内に有名な冰洞と水洞の二洞穴が僅か二三間を隔てゝ相並んで居る。冰洞は洞内四時堅氷に滿たされ盛夏酷暑の候にも解くる事なく、水洞内には極めて淸冽な泉湧き常に淸水を湛へて凍る事が無い。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●外邊長城（張家口郊外）
  
  白皚々たる連峯の起伏、蜒々と長蛇の如く匍ふ長城の破壁、遙か彼方髣髴として天空に連るかの如きあたり、雄渾と云ふか壯觀と云ふか唯廣闊なる展景の前に『偉大』なるものに對する咏嘆の唸りのみである。乾坤廻りて二千歳靑史は尚どこ迄つゞくか。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●長城の燉臺（張家口郊外）
  
  永定河を挟んで兩側から扼するやうに差迫る外邊長城の山巔に所々燉臺（烽火台）が點々として居る。一度烽火擧がれば人動き馬嘶き、長槍、靑龍の劔戟の光忽ち起り、幾度か征馬帳みて殊壘に長恨を殘しゝことぞ、今此處に立ちて指呼の間に想起する時天地は老いず只朔風面を打つのみである。（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●塞外へ（張家口）
  
  張家口の上堡から永定河の河原へ通ずる所に大境門がある。兩側の山上に蜒々たる長城連り更に上堡の城壁に挟まれたこの門は、往昔塞外への唯一の通路を扼する關門で北夷への備へであつた。幾度か烽火擧り長柵を越え又幾度か去りし歷史をよそに苔蒸した城門は今も尚昔ながらの姿である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●順義の街（順義縣城）
  
  河北の北部が注目されて來たのは冀東政府の出現が政治的に環視の内に立つてからで、それ迄は大抵餘り名の知れぬ田舎の一城であつた。順義も縣治地で周圍六里の城壁を撓らし四つの城門があるが、地方農產の集散位で何となく土臭い田舎町である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●牛欄山（順義縣）
  
  牛欄山は縣内牛欄山鎭にあり、往昔淸朝歷代の皇帝が熱河巡幸の砌幾度か車駕を蹕めて景勝を賞でられた個所で、山上の堂宇から眺めると濶々と展げられた全縣一帶の平原の中に、帶の如く西北から渡來する九渡河が山の脚下で北運河に入り蜒々と南下するあたり正に絕景である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●蘇莊の堰（順義縣）
  
  此の地方一帶は雨期に入ると屢々河水の氾濫に惱まされたのでその災害を防ぐために白河に施設されたもので、場所は順義縣李遂莊の蘇莊にあり民國十一年起工し五年の歳月と二百五十萬元の巨費が投じられた。洩水區間二百十米あり土地の人々は淨橋とよんで居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●街頭の石［石へんに童］（順義縣城）
  
  順義の町の中央油臭い雜踏の人いきれの中に古ぼけた石［石へんに童］が一基煮賣屋の屋臺かはりに風雨に曝されて居る。唐時代のものだらうと時代も忘れられて居るが、當時はこの一廓が大きな寺觀の境内でその殘骸と口碑に傳へられて居るのみである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城門近く（昌平城外）
  
  城壁を一歩出るとそこには城内の雜然とは異つた畫面が展げられた。『酒あり』と小旗の一つも慾しげな掛茶屋の床几も人待ち顏に、道端に餌をあさる鶏に秋の陽が照りつけて居る。新政を謳へる村人の樂しげな歡談がその屋臺からもれてくるやうに思はれる程なごやかな情景である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●昌平の譙樓（昌平縣城）
  
  昌平縣城は元永安城と謂はれ白浮圖城から此地に官廳を移された處で、有名な明の十三陵はその北郊約五哩の處にあり、明代その陵衛を設けられてその折周圍十里南北二里の長方形の城壁が築かれた。東西北の三門と南に小門ありこれはその譙樓である。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●懷柔縣城（懷柔縣城）
  
  懷柔縣城は縣の中部にあり、明の洪武年間四壁土を以て築き後年地震のため修理されたのが現存の城壁で周圍四里東西南の三門が開かれて居る。幅約三間位の十字街が幹路をなすのみで餘り活況は覗れぬ、住民は商業の傍ら半農の生活を營んで居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●紅螺寺（懷柔縣）
  
  紅螺寺は懷柔縣の北方にある紅螺山中のなだらかな起伏の連る山合にある寺觀で、附近一帶の景觀は春の花に夏の綠に秋の錦繡にその折々景を添へ、その中に包まれた丹碧の伽藍に色映える眺めは實に一幅の彩管である。夕靄の山皺を匍ふ頃峰から峰に響く鐘の音も又一しほである。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●秋の陽（懷柔城外）
  
  日脚の短い秋の陽はまだ暮るゝに早く道畔に並ぶ楡柳の疎影を小徑に落して居る。ものうげに驢馬の一群がカタコトと殘す跫音がどこかに消えると、あとは遠くの鶏の啼聲のみで田舎の晝は寂しい程靜かだ。やがて土地名物の棗が熟し落花生がとれて赤い串さしの山櫨子が子供を喜ばすのも遠くはあるまい。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●密雲市街（密雲縣城）
  
  密雲は白河と潮河が合流する東北にあり古北口を經て塞外に近い關係から古來蒙古貿易の行はれた地であるが今は見るべきものはない。新舊二城あり舊城は明の洪武年間の建造で僅かに城壁を殘すのみ、新城はその東に連り萬曆年間の建造で周圍六里三城門を備へて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●日向ぼつこ（南滿）
  
  立てば歩めの親心、まして眼に入れても痛くない孫の子守りに樂しげな愛撫の眼ざしが老婆の顏にその儘の童心となつてほゝゑんで居る。服裝から見ると春も日淺い薄ら寒い頃であらう、日當りの良い門先で日向ぼつこに餘念のない處のスケツチ。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●露天市場（南滿）
  
  古着、金物、履物、木工等あらゆる物が天幕張りの小屋に數限りなく、果てはガラクタの廢物まで雜然と軒並に陳列される露天市場は大きな都會には必ずある。その一廓には飲食店もあれば色々な大道見世物もあり更に劇場遊廓さへも備へられて、正に一大市場であり慰安の觀樂場である。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●路鬼（南滿）
  
  冠婚葬祭の御家元の國だけに儀禮は大げさで、特に親の葬送を盛大にする事が孝道と思はれて來た因習と所謂面子の體裁から往々その葬式に家產の大半を傾倒するものさへある。何十人の輿丁に擔がれた靈柩を中心に、長旒や大旆、供物や飾物で里餘に餘る行列が續く、これもその一つの路鬼と稱する紙製飾物である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●阿片吸煙（南滿）
  
  むうと鼻をつく異臭の渦、もう（もう）と閉こめられた紫煙の室内に窓から陽射しをうけた薄暗い寢臺が幾つか並べられて長い煙管を燻らした吸煙者が寝そべつて南柯の夢を貪つて居る。日一日と深みに陥る蒼白の顏の群を見る時、經世家が如何に聲を高くしても阿片は上下を通じて離れ得ぬ固疾であるらしい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●街頭のシネマ（南滿）
  
  銅貨二三枚で覗ける街頭のシネマは『のぞき』に飽いた連中で大繁昌、大衆娛樂として此處でも正に王座である。日光を利用した鏡の反射光で映寫され、トーキーかはりに技師殿の口から出る説明に觀客は用事も忘れて居るうちに日は傾く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●講談（南滿）
  
  露天市場の一角、バラツクにトタン張りのステージで若い娘が二人蛇皮線の伴奏で黄い聲を張り上げて居る。講談に類する勇俠傳と云つたやうな大衆物讀みで、聽集は日半日も腰を下し興到れば呼聲をあげながら悠然と煙管をくわへて聞きひたる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●路傍の飯店（南滿）
  
  包子、豬蹄子、肉腸子など雜然と並べられた大道飲食店の店先きは色と匂ひで食慾をそゝる。自由勞働者を顧客とするだけに店も客も衞生を云ふだけ野暮で、蠅が黑くならうが埃にまみれやうが一個の油餅一串肉腸子は彼等には必要以上の一つの享樂なのである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●木に禱る（南滿）
  
  いつの頃からか古木が靈現あらたかだと口碑に傳へられて神樣扱ひにされた。迷信の深い國民性を利用した宣傳上手か本當に御利益がある爲か、參詣者が多くなり御禮の扁額が飾られた。神罰を怖れて取片附けの勞役者がなく迷信の表徵のやうに今も尚街路に鎭座したまゝ取殘されて居るのが見當る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●易斷の店先き（南滿）
  
  天地乾坤を鵜呑みにしたやうな面貌で小卓の上に二三册の易書と筮竹を並べた易者をよく路傍で見る。未だ易を信ずる民衆が多いだけに相當に商賣かあるらしく弱點をつかんで思はせ振りに説くあたり正に妙手である。便利な事に占の傍ら手紙の代筆もやれば相談にものるので勞働者級には重寶な存在である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●種播き（南滿）
  
  遠近の山が淡い霞に包まれて赭土に被はれた一面の畑地で整然とした畦の線が描出されるとそろ（そろ）種播きの季節が訪れる。春を喜ぶげに赤い大掛兒の色も鮮やかな里の娘子が三々五々畑に連立つて、やがて近づく嬉しい娘々祭が指折り數へてるだらう輕い囁きのうちに種は播かれて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●鹽田用鹽汲風車（關東州）
  
  カラ（カラ）とジヤンクのやうな風車の帆が風に煽られると廻轉に連れ鹽田に海水を誘導して汲上げる鹽汲風車の巧妙な裝置はよく自然力を利用して居る。見渡す限り廣々とした鹽田に點々と立つ風車は滿潮時になると一樣に廻轉される。滿洲の製鹽高四十二萬瓩、そのうち州内の生產は二十五萬瓩である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●鹽の山（關東州）
  
  黄海や渤海の沿岸は雨量少く蒸發が盛んなので海水の鹽分含有量濃厚で製鹽に最も適する地方である。製鹽法は極く簡單な經濟的な天日鹽で、其他再製鹽、加工鹽も產出され貔子窩、普蘭店地方から多く產出される。ピラミツト形に盛り上げられた鹽の山の並列する光景は壯觀である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●原料の粉碎（關東州）
  
  ゴロ（ゴロ）と薄暗い納屋の内で日ねもす目かくしされた驢馬は石臼の廻りをものうげに輓きながら歩むともなく廻る、異樣な石臼の軌る音は周圍の風物に和して何とも云へぬ悠長さが流れる。高粱酒の原料を粉碎する釀造場で、燒鍋（釀造業）は滿洲では普遍的な屋内工業だけに邊陬の地でもよく見られる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●高粱酒の瓶詰（關東州）
  
  非科學的ながら他に類似を見ない釀造法に依る高粱酒は酒精の強い芳烈な飲料で、原料は高粱と麹に相當する麯子で造られる。油坊、磨坊と共に燒鍋と稱せられ在來滿洲の三大工業と謂はれ、年產額四十五萬石位と推定されて居る。詰められる瓶は滿洲土色の豐かな拙雅な趣のある壺である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●落花生の收穫（關東州）
  
  農作物の中でも他の作物とは異り肥料も要らず栽培も容易なところから落花生の栽培は相當手廣く行はれて居る。特に關東州内は栽培獎勵の結果逐年躍進的な增収を見るに至り收穫時になると南京豆の山が到る處に見られ盛況を呈する。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●落花生の加工（關東州）
  
  落花生の栽培が獎勵せられその販路が開拓せられて食料から更に榨油工業へと進むに連れ、需要範圍の擴大と共に生產額も增加されて來た。現在關東州が主なる生產地でその出來高の八割は遠く歐米へ輸出せられ州内農產の主位を占めるに至つた。圖は姑娘達が穀皮をむきつゝある處。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●羊毛の乾燥（關東州）
  
  ホームスパンは家庭工業として在來冬期農閑期の副業に獎勵されて來たもので、全然仕上りまで手工によるだけ雅致に富んだものであるが生產量少く相當高價なものなので更に工業化を試みられて居る。製作工程は　洗毛ー染色ー乾燥ー混毛ーハンドカードー紡毛ー糸蒸ー製織ー縮絨ー仕上　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●糸をほぐす（關東州）
  
  緬羊から刈り取られた毛を洗滌して羊脂を抜き去り乾燥の後適當な染色加工が施される、再び乾燥されたものは一本々々ほぐされて更にハンドカード（繊維を一本宛平行に揃へる作業）を經て紡毛に廻される。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●紡毛（關東州）
  
  若い姑娘は羊毛紡ぎに餘念もない。ブーンと鳴る機械の輕い騷音に醉ふたやうに何を考へるのやら、夢うつゝの車の唸りのうちに乙女の手先から糸は紡がれて行く。ホームスパンは手工業なだけに小娘らにはふさはしい仕事である。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●機織り（關東州）
  
  ハンドカードを終へた羊毛は紡毛で紡がれ更に糸蒸にかけて撚を止め愈々手織の機にかけられ始めてホームスパンとして生れる。織出された布は更に石鹸液に浸して縮める縮絨作業を經て、皺を伸し光澤を出して愈々市場にシークな姿を現はす。　（印畵の複製を嚴禁す）　
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  ●千振郷の部落（千振郷）
  
  昭和八年第二次移民が入植した地點は三江省七虎力河の沿地であつた、翌年例の土龍山事件の勃發により自衞上全員を湖南營に集結し爾來その儘此地を中心として今日に及んだ。滿語「七虎力」［チフリ］が千振郷と改稱せられ、十七ヶ村十七區の集團に各々その出身縣名を附けて、村名として居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●湖南營の本通り（千振郷）
  
  第二次移民團が本據を据ゑてからの湖南營は目睲しい發展をなし、本來僅々二百位の一寒村に過ぎなかつた處が今は人口四千餘を包容する立派な市街となつた。千振郷を中心としてその移民地の生產と消費を目的に、更に將來この背後地よりの特產の交易を目標として生れた繁華である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●種畜場の集合住宅（千振郷）
  
  千振郷の種畜場は昭和十一年十月建築せられたもので二千五百坪の敷地と更に三千町歩の廣大な放牧地がある。馬、牛、緬羊、豚、鶏、家鴨等が飼育せられ各々專任指導員によつて改良生產が行はれて農畜混同の實を擧げて居る。やがて附近一帶蜿蜒一望の大放牧場の出現を見るのも遠くはあるまい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●種畜場（千振郷）
  
  放牧地と採草地として惠まれて居る千振郷では必然的に農耕と並行して家畜の飼養が行はれ所謂混同農業によつて家畜の生產に力を入れて居る。種畜場は家畜種付、種畜の繁殖、緬羊の飼育、畜產の加工等が行はれて居る。牛はその主要なもので乳牛の繁殖を圖り更に役肉兼用を目ざして改良されつゝある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●農事試驗場の溫床（千振郷）
  
  千振郷では農耕の傍ら特殊畑作として煙草の試作が行はれ成績を擧げて居る。米國種の種苗を輸入し試驗場員で經營が行はれ品質も商品價值を認められたので、原料葉の供給が需要に遠く及ばぬ滿洲では將來有利なものである。圖は煙草の種苗を溫床で育成しつゝある處。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●耕作（千振郷）
  
  昭和八年入植より追憶も尚新な受難の九年を經て、十年は未だ食料と飼料の自給の域を出でず十一年漸く順調に終始された。作物は小麥、大豆、粟、高粱等が主でその収穫により農作にも自信が生れ、經濟上の安定と共に精神的にも忍苦が酬いられて人心の落付きと共に一鍬毎に多幸の將來へと伸びて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●耕作用トラクター（千振郷）
  
  千振郷の人口總計八百六十名（昭和十二、二月現在）、その中團員は三百六名で他はその家族である。しかもその八割は選ばれた潑剌たる若者夫婦である處に如何にも村の堅實味が覗かれる。見渡す振りの黑土の原野を日章旗も鮮やかなトラクターが馳驅する毎に、沃野は耕されて國策滿洲移民の實が結ばれて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●ホームスパン（千振郷）
  
  冬期間比較的積雪量の少い此地方では緬羊の年間放牧が行はれ得るので畜產中第一位を占めて居る、現在八百七十頭（昭和十二、一月現在）ありその生產羊毛並に羊皮の利用のため移住者の家族にホームスパンの製作と毛皮鞣等が指導された。紡織から仕上迄綺麗に行はれホームスパンの立派な生地が出される。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●移民訓練所生の耕作（千振郷）
  
  若い人々に移民として訓練するため訓練所が設立され指導員の手によつて實地敎育を施されて居る。特に最近第六次移民の先遣隊員が三百名の團員に一戶當り二名宛訓練生として割當られ、異常な活氣の中に朗らかな靑年移民の強い腕で新らしい土は拓かれて行く。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●村の鐵工場（千振郷）
  
  團員の手で個人住宅から各集團部落の附屬建物が建設され十七ヶ村が集つて輝かしい千振郷が生れた。中心地湖南營には先づ神社が祀られ、小學校、病院から農產加工場、農事試驗場、種畜場、訓練場、鐵工場等が順次建設されて、世評の樂觀悲觀の杞憂もよそに着々一歩づゝ強い脚を土に即して進みつゝある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●千振郷
  
  片手に銃器片手に鋤鍬をとつた所謂武裝移民初期は事實耕す日より戰ふ日が多く、殊に例の土龍山事件の突發の折は脱退者を出す悲運にさえ遭遇した。其後此の湖南營時代を迎へ種々の惱みと試鍊とを經たが逐年好調を續け漸く躍進の波に乘つて今日の千振郷を見るに至つたのである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●村の掲示板（千振郷）
  
  屯墾時代の黎明苦難の期も過ぎて事業經營の基礎が着々固まると、事業の指導と統制のため村行政の機構が敷かれ村長以下の吏員と各村から選出の代表を見るやうになつた。役場の前の告知板には「野火注意」など如何にも村らしい野趣の文字などが書き出されて日々村の動きが揭げられて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●湖南營の町（千振郷）
  
  彌榮村は自給自足の信條の下に團員自から開墾は勿論總ての副業も加工も一手に經營しつゝあるが、千振郷は湖南營先住農民の豐富な勞力を利用し更に積極的な經營法を講じ耕地の發展を計畫されてるので、自然湖南營に滿人の集るものが多く今は人口四千餘の賑やかな町が形成されて居る（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●集團家屋（千振郷）
  
  先驅者の辿る路は尊い、國策移民への努力と苦闘はよく荊棘を切り拓いて今や前途に輝かしい民族發展の進路を固めて居る。春の晨、夏の眞晝孜々として生業にいそしむ人々を見ると淚ぐましい感謝が湧く、こは今し午の休息時を我家に憩ひを分つ家族のひと時。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●製材所（千振郷）
  
  廣い曠野の中に拓かれた千振郷の耕地は、その耕區内に森林地帶を容有する彌榮村と異り木材が無く他から搬入される。村の製材所に運ばれた木材は建築材料の他は燃料の薪となり村の人の手で木炭として供給される。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●春耕（千振郷）
  
  堅く結されて居た松花江に流氷を見る頃から北滿の耕地にも春の跫音が近づいてそろ（そろ）春耕へと促される。廣々たる曠野に地面を四頭立の大犂が匍い出すと、村の人達へ春の贈物の草花も咲さ出して沃土は平和のうちに忙しい日が續けられる。（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●播種（千振郷）
  
  冬の眠りから蘇つた耕地に春の囁きが訪れると耕起が始まり四月の末頃には麥の播種が行はれ、鎭壓のローラーがゴロ（ゴロ）と駈けまはり大豆、蕎麥を最後として五月末頃迄に春耕が終る。これから除草迄の寸暇が樂しい慰勞の時で故國を偲ばせる鎭守の春祭が賑やかに催される　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●農具（千振郷）
  
  廣大な耕地を包有する千振郷は一戶平均自作耕地十八町歩、水田二町歩が割當る。猫額大の内地に齷齪したのも昔語り、努力一つで必然的に廿町歩の地主になれる希望が擴げられて居る。　農具も水田は旣に大農式を使用し、曠原の耕地にトラクターの爆音が勇ましい行進曲を奏でて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●養蜂（千振郷）
  
  村では農耕の傍ら種々の加工品、主として畜產加工が行はれ養蜂もその一つである。春になると草原一面千紫萬紅咲き誇る野花は理想的の養蜂場で事業は着々成績を擧げ採蜜の市場化が有望視されて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●村の人々（千振郷）
  
  外側が支那式に塗り固め溫突が据付けられ、内側は筵敷きと土間に仕切られてある集團家屋は、さゝやかながら慰安の殿堂であり彼等の玉樓である。今宵は代表の集ひらしい、薄暗いランプに照された逞しい顏と潑剌たる母と兒の面貌、何となく内地の農村情景が偲ばれるうちにも前途の明るさが漂ふ　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●翻へる日章旗（彌榮村）
  
  彌榮村は三江省樺川縣第六區舊永豐鎭で、八年二月佳木斯に屯墾して居た一部が移動してから九年三月愈々入植を完了し、十年三月屯墾の文字が廢されて彌榮村と改稱された。その間幾度か紅槍會匪、謝文東匪等の襲擊に遇ひ、治安と戰ひつゝ傍ら辛勞の開拓を續けて現在に到つた。旭旗の下なごやかにいそしむ人々を見ると淚ぐましいものがある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●彌榮驛（彌榮村）
  
  佳木斯から坦々たる曠野の中をスローモーシヨンの汽車に搖られて南東へ十五里の處、廣い野原に取殘されたやうな白亞の日本式建築が彌榮驛である。圖佳線の開通された今日、移民地の發展に連れ生產品の他出と共に將來重要な地點となる驛である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●彌榮村役場（彌榮村）
  
  村役場はもと地方に蟠居した紅槍會匪の倉庫のあつた處で、村は永豐鎭と更に縣別の十三區を加へた十四區より成り、此處を中心として現在九百二十餘名（十二年二月末）が幾度かの試練を經た堅い團結の下に輝かしい前途に進んで居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●村の鍛工場（彌榮村）
  
  本來の農耕牧畜の外農產加工品を製造すると共に、木工班は移民團家屋の建築に止らず請負部を組織して他の建築を行ひ、鍛工場は農具の製造修理や蹄鐵を造り、其他輸送、宿泊、製桶、製材等も漸次充實されつゝある。更に病院、學校、寺院等の施設も見られて今では住心地の良い村が形成されて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●農具の修理場
  
  移民目標を自作農の本分に置き可及的滿人小作人を使用せぬ事として居る彌榮村は、自由主義的な千振郷とは趣きを異にしてるが總て自給自足の下に堅實な農民生活に即するやうにされて居る。生活必須の品、味噌、醤油は勿論、精米、農具のはてまで一切村内に於て製造供給せられて居る。（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●移民地風景
  
  農耕を以て第一義とし自給自足主義を守り本分以外の生活の餘剩はこれを家畜の飼養に充當されて居る。從つて本格的な種畜場が設けられ馬、牛、緬羊、豚、鶏、蜜蜂等を飼育し、更にその加工業が行はれ相當な成績が擧げられ、生產品はホームスパン、ソーセージ、蜂蜜等が數へられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●彌榮小學校（彌榮村）
  
  元氣の良い高らかなコーラスが建物のかげから廣い耕地の空に流れる。村の學校の唱歌の時間であらう頑健な顏が小雀のやうに聲限り叫んで居る。生徒は現在二十數名で出產率の多い村の學校は近い内にこの元氣な第二世達に充たされ、そしてそれが中心となる眞の移民村が完成される日も遠くはあるまい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●豐富な木材（彌榮村）
  
  彌榮村の移民地域の推定約四萬五千町歩の廣大の内東部に欝然たる森林地帶がある。多量の木材が搬出されて自家用の建材となり更に薪炭ともなり特に副業としての木炭製造は佳木斯市場に非常な好評を博しつゝある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●法悦の下に（彌榮村）
  
  蕀の道に精進する兎角亂れやすき足並、ともすれば荒み勝ちな懸念に迷ふ夕の望郷の念にかられる折、法燈はよく希望を繫ぎ不安を去りて人々の心を大地に歸らしめる。見るからに見すぼらしい物置小屋の片隅に身を托して、朝夕の勤行に眞摯な信念の下に奉仕する精神感化はよく村民を敎化して効果を齎して居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●春寒し（彌榮村）
  
  北滿の春はスンガリーの流れと共にその沿岸から甦りの音信がつたへられて、哈爾濱あたりから半歳振りの樂しい音便が佳木斯の碼頭に着く頃になると移民村にも春の萠しが訪れる。耕地から播種にかゝる四月末頃でもともすれば地上一面春の淡雪に包まれる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●太沽（天津附近）
  
  太沽は白河々口の右岸にあり人口一萬餘對岸の塘沽と對し一都市を形成して居る。白河は上流より押し流さるゝ泥塞のため船舶の遡航不能にして、天津航路の巨船は此處で貨物の揚卸が行はれ小蒸気船で連絡される。支那近世史上に現れる對外事變に際し數次の交戰舊址であつて有名な砲臺があり、附近に天日鹽の產地として名のある長蘆鹽場がある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●塘沽（天津附近）
  
  塘沽は天津より下流四四粁の地點で太沽に對して白河左岸にあり、河底の泥塞の多いこの河では滿潮を利用しても天津迄の遡航不可能の船舶は皆此港に繫留されて北寧線で連絡される。人口一萬八千餘、圖中右側が塘沽驛、船舶の繫留されてある場所が棧橋で天津への咽喉として水陸の要衝をなして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●天津碼頭（天津）
  
  一八六〇年の北京條約により開港された天津港は白河河口より三十六哩の上流にあり北支第一の貿易港として地方經濟の心臟である。白河は此附近で濟南に連る南運河、北平、通州に通ずる北運河、其他東河、西河を合流するが、由來黃土の泥塞甚しくその影響を被る事多くその浚渫が問題とされて居る。貿易品は主として棉花、羊毛等を輸出し、棉糸布、小麥、銅、鐵等が輸入せられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●天津東站（天津）
  
  東は渤海の要衝に當り北は北平を扼して北支の門戶をなす天津は、人口百三十萬、東西に走る北寧鐵路は北平と奉天を結びて滿洲國に連り、直角に交り南北に縱走する津浦鐵路は上海、北平を結んで江南に通ずる。前者の車站は第三特別區にあり塘沽と連り、更に北方支那街には津浦鐵路の天津總站がある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●日本租界（天津）
  
  日本租界は明治二十九年に設定せられたもので現在約四〇萬坪の地域に三萬五千の人口を抱有して居る、東が僅か佛租界と白河に接するのみで南、西、北共支那街に接し北支一帶に於ける吾が商權の中心地となり完備せる陣容は邦人活躍の基礎確立と共にその進展振は他國の追從を許さぬものがある。圖はその殷賑の中心たる旭街の盛況。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●伊太利租界（天津）
  
  天津の租界は北淸事變前後に設定せられたもので最初は日、英、佛、伊、獨、露、白、墺の八カ國であつたが歐洲戰後に、獨、墺、露、白が回收せられて、それ（ぞれ）第一、第二、第三、第四の特別區と改制せられた。租界毎に各國獨自の經營が反映されその一つ一つに國民性の植民化が窺はれると共に、その一角に支那政治動向の潛勢力が抱容せられて政變毎によく策動の搖籃となる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城内支那街（天津）
  
  支那街は租界の西北一帶に展開されて、城裡、城外、河北、獅子林、金家窰、窰窪、河東其他の四小區を合して十一區に分たれて居る。中央の舊城廓が徹せられて大馬路の舖かれてる處が城内で、その内には官署、學校等が多いが實際の繁華は寧ろ城外にあり、更に有力なる商賈は多く租界の外國商館の間に軒を並べて素晴しい進出を見せて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●萬國橋（天津）
  
  萬國橋は東站から第三特別區を經て對岸の佛租界に通ずる白河上に架せられた開閉橋で、天津繁華の動脈はこの邊を起點とし佛租界を經て日本租界を貫通し隣接の支那街に流れる。更に附近の伊太利租界には「ハイ・アライ」の不夜城に喧騒の賭博境が現出せられ歡樂境天津の脈動が覗かれる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●棉花船（天津碼頭）
  
  棉花は支那に於ける重要な輸出品でその収穫期が來ると白河の河筋は急に繁忙季を迎へて天津の碼頭に集散せらるる。多くは河北、河南、山東等より產出せられたもので白河の各支流から民船に運ばれて此處に落合ふのである。棉花は天津港第一位の輸出品で更にこれが棉糸布棉製品となつて此港に輸入せられて來る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大和公園（天津）
  
  各國の租界は小さいながらその地内に外國風の公園がある。各々異つた趣味と嗜好の下に母國の風致を想はせるやうな例へば整然たるビクトリヤ公園、印象的なフランス公園など故國を離れた人々の心に郷愁をそゝるにふさはしい。大和公園も池のたゝずまひや庭石などの日本らしい雰圍氣の中に四季を通じて人々を慰め、夏の夕ともなれば納涼の遊歩に輕い浴衣の衣擦れも聞かれる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●陽和臺（山西・陽高）
  
  平綏線は張家口から外邊長城の内側に沿ふて大同に向つて走る。北方の連丘に隱見する長城の廢墟や墩臺を眺めながら、蕭條たる平野や丘陵の中に耕された畑地や羊群の放牧を見送りつゝ山西に入ると間もなく陽高の驛がある。大同の手前の小驛で昔時塞外通商の要地として明の頃には陽和總督廳の置かれた跡である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大同府展望（山西省）
  
  大同は山西北部の巨鎭であると共に歷史的にも重要な市街で、秦、漢時代以來陘北の要地として朔平府と併稱せられし處、南は恒山を望み北は陰山を負ひて地勢自然に高く海抜凡三千四百呎に達する。府城は桑乾河の右岸にあり、四方に高さ二丈幅二間の牆壁が繞らされ商業都市として殷賑をなして居る。物產の主なるものは石炭、銅器を始め附近の平野から產する農產等である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●要鎭得勝口（山西省）
  
  山西から察哈爾に抜ける境界線の溪谷に、得勝口の關門がある。外邊長城の一關門として往昔蒙古との通商路たりし處、現存のものは明代の重修のもので外側に『外威』内側には『內順』と記されて居る。圖はその外側に更に一廓をなす城壁で前方遠く見ゆるのがその關門の舊蹟で、今は城門近く僅かに殘る大きな馬宿に昔の面影を偲ぶのみである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●長城は古りて（山西省）
  
  萬里長城のうち、南口から出たものを內邊長城と云ひ張家口から走つたものを外邊長城と呼ばれて居る。僅かに堤防の如く癈骸を殘す蜿蜒たる土壁の上には墩臺の土塔が立ち並び、野も山もすべて臺のみの中に立ちて『孤山幾處看烽火、戰士連營候鼓鼙』の古詩が描いた風景を想ふ時、そゞろに來寇に備へて烽火に照らされた悲壯な場面が浮ぶ。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●靈嚴寺（察哈爾・豐鎭）
  
  山西から得勝口を經て察哈爾に入つた處に豐鎭がある。北蒙古に通ずる本道の通路で更に涼城を經て綏遠に通ずる要點なので、鐵道開通後はその繁榮が大同に迫りつゝある町である。更に附近にある大海灘の食鹽の產出と地方農產集散地として、附近蒙古人の市場をなして居る。圖はこの町の靈嚴寺の全景。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●平地泉全景（察哈爾）
  
  平地泉は平綏線が開通されると共に出來た新開地で、附近一帶は海子と稱する鹹湖のつくつた一大沖積盆地で海抜四千八百呎の高さに水平の峯に圍まれた平野である。この廣い原野はすべて黍や燕麥の農園でその產出額は沿線中屈指の輸出驛となつて居る。更にこゝより蒙古橫斷の平綏支線が計畫せられてその前途が刮目されて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●卓資山の驛路（察哈爾）
  
  平綏線が大同から察哈爾に入り、平地泉から西北に折れて愈々綏遠に入る手前に卓資山の驛がある。此邊一帶は熔岩臺地で、その臺地下盤の浸蝕風化された平地に出來たさゝやかな町で、附近住民常食の燕麥の畑が靑々と連り黄土の斷面には穴居が見うけられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●穴居の生活（察哈爾・卓資山）
  
  黄河の流域地方、主として河南、山西、陝西、察哈爾の地方には黄土層から構成せられる處が多い。穴居生活は主として此の地方に昔から發達して來たもので、黄土層が割合に堅牢で崩れぬためと、氣候の關係からその内部が夏冷冬暖で生活に適すると、更に地質上木材、石材の建築材料が乏しい結果から自然發達したものと云はれて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●穴居の内部（察哈爾・卓資山）
  
  穴に生れ、穴に長じて、復た穴に死んで行く人々、都會人が想像だも及ばぬこの生活も彼等には安住の地であり平和郷なのである。外では燕麥の刈穫りに忙しいであらう、小孩と留守する奶々もやがて短い秋の陽が暮るゝ頃には野良から歸る人々への夕餉の仕度に立たねばなるまい。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●穴居の厨房（察哈爾・卓資山）
  
  穴居は多く黄土の斷層に穿たれた横穴で、天井は穹窿狀にくりぬかれ一室のものも二室も三室も連續される時もある。更に炊事場、物置、寢室や馬槽なども備へられて階層のものも見られる。これはその厨房の一部でさゝやかながら事かゝぬ一と通りの炊事道具が備へられて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城門（山西・大同）
  
  廢頹崩壞して今は昔日の雄揮さもなく雜草のびるまゝに、治亂興亡幾變遷の夢を結ぶが如き大同の城壁は、幾度かの君主を迎へその首都となり現在のものは明の洪武年間に增築せられたものである。高さ二丈、幅二間、周圍十三里の長方形の城廓で、東西南北の四門ありその四隅に鎭樓を備へ、その後南北に周六里の外城築かれその内側を南關、北關と呼ばれた。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●古都大同（山西省）
  
  大同は遠く春秋の昔から趙、秦、漢を經て後魏の古都が置かれた地で、更に遼、金の盛時には西京として知られ、元を經て明の時代に築城されたのが今の檣壁である歷史の都であると共に省北部の重鎭として太原に次ぐ町で、人口約六萬、毛皮、羊毛等の對蒙貿易盛んで、軍事上にも昔から外蒙との接觸上樞要な地點であつた。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●四牌樓附近（山西・大同）
  
  南北に長い方形の城廓に圍まれた城内の中央に今は朽ちかけた三層の鐘樓かある。この鐘樓を中心として四牌樓が立ち、各主要大街がこの中心から四方に流れて城門に續く。東を和陽街、西を淸遠街、南が永泰街、北が武定街と稱へられる。此處が山西北部及綏遠南部地方物資の集散地大同の殷賑の中心で商業都市のセントラル區域である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●經幢と鐵爐（山西・大同）
  
  大華嚴寺大雄寶殿の境内前庭に色錆びた經幢と鐵爐が二基並んで居る。上部に僅かに小龕を殘して居る八角形の陀羅尼經幢は、永年の雨曝しで文字も磨滅せられ判明せぬが遼の道宗時代のものと謂はれ、隣りの八角形の焚帛爐（鐵爐）は明の萬歷年間と刻まれている。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●華嚴寺大雄寶殿（山西・大同）
  
  華嚴寺は遼の淸寧八年に諸帝を祭祀するため建立せられた大伽藍で、城内淸遠街の一角にあり、紅甍碧磚の彩もまばゆく輪奐の美に映ゆる寺觀の一廓で、遼の諸帝の石像や銅像が安置され現存のものは明の洪武年間に改修せられたものである。大雄寶殿は靑磚の宏麗も嚴かに長方形の月臺に鎭座するその本殿である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●梳粧樓（山西・大同）
  
  城内北隅の小丘に黄沙を吹く朔風にさらされた丹碧の色も褪せた一閣がある。嘗つて遼が天下に覇をとなへた頃の華やかなりし後宮の華麗を物語るにふさはしい名も梳粧樓と呼ばれた古樓である。遼の蕭太后の住みし處と傳へられるが今は昔長夜の宴も物倦げに勾欄に凭る繊手細腰の傾國が艶姿を偲ぶには餘りに寂しい思出である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●九龍壁（山西・大同）
  
  九龍壁は城内和陽街にあり、高さ五丈、長さ二十丈の壁間に生色躍如たる九つの龍が光彩まばゆき靈氣につゝまれて五色の琉璃や磚瓦の彩も鮮やかに篏刻せられた精緻なものである。壁前の方池に石橋あり、五つの碑石が並んで居る。その字句も磨滅せられて不明であるが明代に王府があつた處と傳へられて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●崩れ行く城壁（山西・大同）
  
  遙か彼方の墩臺から烽火が擧つた。一陣の蕭々たる沙風に搖るゝ大旆の下、壁上に長劔を撫する靑年の面上は狼火に照り映えて悲壯の眉宇が漲る。壯士慘不驕、明月沖天に懸る下、寂寥たる夜氣のうち僅かに陣營に蠢動を聞くのみである。かつて塞外に威を誇つた城壁も今その偉容を僅かに靑史に殘すのみで夢を追ふには醜い存在である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大同城外（山西省）
  
  大同郊外附近は一望平坦な黄土の平野である。この地成は桑乾河の上流御河が蒙古の熔岩地帶を切り開いて南下しこゝに大盆地を開き、やがて盆地の東北の一角から太古代の片麻岩地を流下せしめて出來たものである。地味は肥沃であるが雨量が少いので農產には餘り適せぬ、一帶から菜種、蠶豆、豌豆等が產出せられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●街の金物屋（山西・大同）
  
  石炭の山西と云はるゝ程省内にはその埋藏量多く殆んど全支の半分を占め、大同附近の口泉は大同炭の產地で良質物多く出產量は三十八萬噸餘（一九三三年）で省内第二位である。石炭に次ぐ資源として鐵、銅の鑛產物が擧げられるが、鑛區の廣い割に生產方法不完全のため製品の產出は少いが、城内途上よく金物を陳列した店が見受けられる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●綏遠の鼓樓（綏遠）
  
  興亡治亂幾百年,曾つて韃靼高原の狼と怖れられた元帝國の首都たりし綏遠城も、この事變迄は漢民族の支配下に喘いで來たが、一度聖戰の劔をとるやその昔遠く埃及までも雷名を轟かした英雄成吉斯汗の血は甦り、鬱勃たる意氣は燃えて忽ち樂土蒙古建設の日が來た。圖はその中央にある鼓樓である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●陰山々脈を望む（綏遠）
  
  蒙古を東から西に橫斷する、重疊たる陰山々脉は、蒙古と綏遠平原の障壁の如く幾多漢蒙抗爭の變遷をよそに今も魏然として千古の偉容を湛へて居る。綏遠の城璧上、大陸を訪れた秋風のうちに遙かに歸綏平原を隔てゝ望む陰山々脉には早くも頂上に白雪が訪れて一しほ秋の深さが泌みる。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●歸化城の土城（歸化城）
  
  歸化城は綏遠の驛から西南五支里にあり、民國になつてから歸化城と綏遠とを合併して歸綏と改められ、現在の歸化城は綏遠城の官署街に對し商業街として人口八萬を有し、張家口の蒙古に對すると共に陝西、甘肅、新疆を對象として交易が行れて居る。昔から民族興亡の歷史が繰返された地で、康熙年間舊城を修築し同治年間更に土城が城外に築かれた。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城外の平原（歸化城）
  
  此地方は昔時漢民族の盛んな時代は屯田地であつたが明代にはその勢力を失ひ全く蒙古人の遊牧地と化してしまつた。更に淸朝にはその統治下に入るや漢人の來り開墾するもの多く昔日の塞外の感が失はれ、民國以來は閻錫山が旺に省民の移殖を獎勵した結果、農業か發達し產物も直隸の平野を凌ぐ豐富さである。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●悲劇の塚（歸化城郊外）
  
  漢蒙抗爭の贄となり遠く黃沙萬里の異域に送られ、紅淚潜として空しく愛玩の琵琶に長恨を托し、胡國の露と消えた美姫王昭君の自殺した處にその墓がある。歸化城外、慘風悲雨幾星霜、只寂寞たる平原の中に殘された悲劇の塚は今は徒らに蕭條たる朔風に恨を呑む。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●大招寺の正殿（歸化城）
  
  喇嘛廟大招寺は歸化城内の尤も繁華な巷にある、昔は周圍四支里の一廓に黃瓦朱棟も鮮やかな正殿（大雄寶殿）を中心として無數の僧房が軒を列ね、數千の僧侶が朝夕の勤行に盛時を誇つた面影もなく今は僅かに百餘人の僧侶が住するのみである。寺前の僧房の大部分は商家に貸してあるので一帶は雜杳の巷となり喧噪の盛場となつて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●包頭鎭（包頭鎭）
  
  包頭は烏拉連嶺と大靑連嶺との中間の要樞に位し、平綏線の最終點で且つ黄河々畔唯一の要港で、人口六萬、蒙古から更に甘肅と平津地方を結ぶ交易の中繼地たる新興の商業地である。圖はその北方丘陵龍王廟より望みたる市街にて、廟内には轉龍藏と稱する甘泉あり全市の源泉たる淸水が湧出して居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●街頭の糸車（包頭鎭）
  
  包頭の城壁近く、街頭の陽當りの良い場所に糸車を持出して羊毛を紡ぐ親子連れ、物倦げにカラ（カラ）と廻る幼稚な糸車の軌りに短い秋の陽は西へ西へと傾く。　蒙古一帶は古來から羊毛の產出が多いので棉のかはりに獸毛が紡織され袋などに使用せられて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●黄河の船着場（包頭郊外）
  
  包頭の通商は鐵道の外に黄河の船運に據る、遠く星海宿に源を發し流程凡そ八千支里、靑海、甘肅を經て來る黄河の流は筏或は羊皮船にて羊毛を運び、寧夏、五原よりは雜穀其他が運ばれ更に平綏線にて京津地方に輸送せられる。船着場は包頭から少し離れた南海子の岸にある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●内蒙へ（包頭郊外）
  
  綏遠省も包頭迄來ると愈々沙漠の感が深くなつて來る僅かに生きる雜草の坦々と續く曠原を、蒙古牛車は轢轆の音も重く二筋の轍の跡を殘して北へと消えて行く。行先は何處、百靈廟あたりか。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●下關（南京城外）
  
  下關は獅子山下秦淮河の砂州に生れた新開地で、上海より長江を遡るもの、滬寗線によるもの、津浦線にて浦口から渡江するものも南京に入るには皆下關を經て連る下關は人口八萬、江寧線にて城内と連絡し、その埠頭であり商業區域である。揚子江岸には躉船[ハルク]と稱する大小十以上の碼頭が並んで長江第一の要關をなして居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●國民政府（南京）
  
  江南平野の中心として遠くは金陵の昔から更に六朝の帝都となり、近く淸朝時代は北京に對し南方政治の中心であつた南京は、長髮賊のため十六年間その蹂躙の下にあり一時荒廢に歸したが、民國の成立と共に首都となるや着々面目を改め今や人口百萬の大都會となつた。國民政府は國府大街の元兩江總督衙門のあつた處にある。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●秦淮のどよめき（南京）
  
  秦の始皇帝が金陵に王氣ありとの言を信じこれを掘鑿したものと言はるゝ秦淮河の河畔は、隋唐以來風流狹斜の巷となり絃歌さゞめく畫舫に江南美妓の柳桃艷姿を唱ふた處であるが、民國となり取締嚴しく往昔の俤は見られず尚僅かに名殘を止め、夫子廟附近には寄席、觀覽物飲食店等軒を並べ雜杳を極めて賑ふて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●鷄鳴寺（南京）
  
  鷄鳴寺は北極閣前面の山上にあり、有名な施食臺を左に眺め石段を昇れば六朝康國の跡と云はるゝ本殿があるその傍に豁蒙樓、景陽樓あり共に登臨の遊客に席を設け寺僧が苦茗をすゝめる。現存のものは明代の建立と云はれ所謂本朝四百八十寺中の名刹で、こゝの後殿より望む玄武湖の眺めは特に絕景と云はれて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●民船の螺集（南京郊外）
  
  三峡の水路五十哩、その間灘所を數ふる六十餘個所、よく一棹の扁舟に身を托して長江を上下する民船の旅、揚子江筋一帶の交易は皆その船人の手で行はれて來た。鐵道が出來、汽船が江上を奔る今でも尚民船の往來は繁く、昔ながらの船人は命がけの灘航を板子一枚に托して居る。これは下關附近秦淮河近くに集つた民船の群。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●玄武湖の淸遊（南京）
  
  南京城外の東北、玄武門を出た處の廣々とした水澤が玄武湖である。一名後湖とも云ひ昔は長江の流が通じた處で、今はその内に浮ぶ島々に亞州、歐州、韭州、比州、濠州の名を冠して五州公園とも呼ばれ、南京の名所として夏は池面を蔽う蓮花の間に納涼の畫舫を浮べ、冬は雁鴨の狩獵に都人の遊樂の地となつて居る。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●莫愁湖の春色（南京）
  
  城内を水西門から出で右に周圍二哩計りの池塘あり莫愁湖と云ふ。宋代に美妓盧莫愁の住せる地と言はれ、水頗る淸澄にして湖中に蓮花あり、池畔に明の太祖と中山王徐達が圍碁を戰はせると云ふ勝棋樓あり、こゝより東を望めば楊柳參差たるうち遠く紫金、淸涼の山々汀盧に相映じて風光頗る佳趣に富む。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●城壁の上から（南京）
  
  南京は古く戰國時代には楚玉の金陵城たり、六百年前明の太祖が王城として君臨し、周壁凡九十六支里、十六門を有する城壁を築き更に周百八十支里の外城を築いて龍蟠虎踞の要鎭を置いた處である。外廓は今は見るよしも無いが、内城三十二哩に亙る磚壁は高さ三十尺から五十尺に及び首都の圍ひとして堂々たる偉容を構へて居る　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●獅子山（南京）
  
  獅子山は南京城内の最南端、國都の玄關をなす山で一名盧龍山とも呼ばれて大砲臺を備ふる防衞第一の要塞である。隣接する下關は揚子江對岸の浦口迄河幅約六百間餘、その秦淮河を狭む兩砲臺と獅子山砲臺は相呼應して長江の護り國都の備へをなす頗る重要なる關門である。　（印畵の複製を嚴禁す）
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  ●燕子磯の風光（南京）
  
  南京の下關から自動車で約一時間の地、洋々たる楊子江《揚子江》に望み江岸に突出する磯岩がありその形飛燕の如きため燕子磯の名がある。前面に展開せらるゝ長江は蜿蜒として悠久に流るゝものゝ如く、江上遙か帆影を隔てゝ望む江北の連嶺摸糊として水天髣髴の間にかゝるあたりその絕勝は正に南畫の領分である。　（印畵の複製を嚴禁す）